神戸には人気漫画家・高橋由佳利先生のご一家が経営されているトルコ料理店「ケナン」がありました。現在はクローズしてしまったのですが、訪れた往時の記録として本記事を残しています。
トルコといえば浮かぶ、私のなかの二大巨頭
私のトルコの知識は篠原千絵先生の『天は赤い河のほとり』と『夢の雫、黄金の鳥籠』、高橋由佳利先生の『私もトルコで考えた』で出来ています。篠原千絵さんの漫画で歴史を学び、高橋由佳利さんの漫画で文化を学んだ、という感じ。
特に『私もトルコで考えた』(以下、略して「トル考」)は、先生の実体験に基づくエッセイ漫画。複雑な慣習や美味しそうな郷土料理もわかりやすくイラストで理解できるので、トルコ旅行に行く人の読破率は高いそう。
現在は神戸で暮らす先生ご一家。数年前には、神戸に旦那さまがトルコ料理屋をオープンしたとのこと。「チャンスがあったら行きたい~!」と興奮してましたが、念願叶って経営されているトルコ料理屋「ケナン」に行ってきました。作中では“Tくん”として登場する旦那さまにも興味津々だったけど、これまで味わったことのない魅惑的なトルコ料理の数々を食べてみたかった、というのが最大の理由かも。
いざ、北野・異人館近くにある「ケナン」へ
お店があるのは人気観光地・北野の異人館近くにあるビルの一階。すこし奥まった場所にあって地図を見た限り、地元の人じゃないと迷いそうです。神戸のタクシーは「近距離でもOK」と表示されているので、タクシーで向かいましたがJR三ノ宮駅から移動して2メーター程度の距離でした…。
細道にあるので目的地手前の、こんな通りで降ろされました。進むべき路地のカドにこんな案内板があるのでわかりやすい。
この日は風がものすごく強くて、キレイに撮れなかったけどトルコ国旗もハタハタとしているので目印になるかと。
この路地を入っていきます。
ちょっと面白かったのが、ケナンの手前にある喫茶店。「サンパウロ」っていう店名で、トルコ料理「ケナン」との並びが国際色豊かな神戸っぽい。ケナンは左手の背の高いオリーブの木のあたりに位置します。
「おお、これがあの“ケナン”だ!」と、パッと見ただけで確信。お店の外観はマンガにも登場しているので、初めて来たけど前から知っている懐かしいような不思議な感じです。思っていたお店よりも、もっとこじんまりとした外観。「営業中」とか「OPEN」みたいな札が出ていないので、おっかなびっくり扉を開けて「ランチまだやってますか?」と聞くと、なかから「Tくんなのかな??そうだよね??」とドキドキしてしまう、漫画とは異なる風貌の男性がそこにいました。
「どぞー、予約テーブル以外なら大丈夫ですよー」と、案内いただきました。マンガからはもっと大柄な体躯を想像してたけど、小柄な男性でした(まあ、私の身長が172cmと大きいというのがあるのでしょうけど)。
小さな扉の奥には、目に鮮やかなブルーを基調とした可愛らしい内装の店内が広がっていました。席数は多くないけれど、キリムのクッションが並んでいて異国情緒たっぷり。
民族衣装を来た小さなお人形が等間隔で座っている壁面装飾。ランプもかわいいなあ。この内装もマンガに登場していました。この日はテーブル席に6人の団体予約が入っているそうで、一番奥のテーブル席に座りました。平日13時過ぎに来たのですが、ほかのお客さんはおらず。Tくんと2人っきりで何を喋っていいやら緊張しまくりでした。
Tくんは奥さんがマンガに自分自身のことを描くのを嫌い「描き続けるなら離婚だ~!」となったこともある…とインタビューを読んで知っていました。そんな状況で迂闊に「奥さんのマンガのファンです」みたいな話はどうなんだ? いい気分しないよね?と自問自答。結局何も話かけられませんでした。
先生手描き、つまりは原画のメニューブックに手が震えた
あらかじめマンガにも描かれていたので知ってはいたんです。「ケナン」のメニューが高橋由佳利先生の手描きであることを。でもやっぱり、いざ実物を手にしたときは息を呑みました。
先生がマンガの中で幾度となく描いてきたチャイ。独特の淹れ方をこんなイラストを添えて紹介していました。ペンタッチとか、インクの濃淡とか原画じゃないですかこれ…… 。普通なら展示会で手に触れないように掲示されるモノですよ……。
心を落ち着かせるため、とりあえずビールを飲みました。トルコの定番ビール“エフェス”は、色を見てわかるとおりあっさり淡麗の飲み口。いくらでも飲めちゃう系です。
ファンにはお馴染みのマントゥ。お店で出す料理の試作に家で調理していた先生、小麦粉をきらしてしまいお好み焼き粉で代用したエピソードは笑いました。ピリ辛トマト味は大好きなので食べてみたかったけど、今日は一人で来店。お腹にズッシリとあるので諦めました。
ランチコースを頼んでみた
熟考の結果、選んだのはランチのコースでトルコの家庭料理(1,500円)。メインは数種類の日替わり料理から1品選び、スープとサラダが付きます。この日はラッキーなことに、食べてみたかったナスのムサッカが入っていました。
まずはレンズ豆のスープ。レモンを絞りかけてあり、乾燥ミントがパセリのように載せられた一皿。お好みで辛さを足したい場合は赤唐辛子をふりかけます。説明を聞く限り「豆にレモン? 合うのそれ?」とドキドキしたけど、意外や意外。酸味が強いアクセントになっておいしい。日本ではおよそ味わえない新しい味覚でした。じゃが芋のポタージュのようにこっくりとした甘味と、とろみのあるスープにレモンの酸味が加った味、と想像してもらえると。
唐辛子の容器もオリエンタルです。これもトルコまで買い付けに行ったという食器のひとつかしらん。 次に出てきたのはサラダ。ランチセットなので羊飼いのサラダとは異なるのかな。白ヤギのチーズは不在でした。でもレモンとオリーブオイルたっぷりで、塩コショウがきいたシンプルなサラダ。紫玉ねぎにピーマン、レタス、トマト、ラディッシュと具だくさんでもりもりっと生野菜が食べられました。市販のドレッシングが苦手なんで生野菜が苦手なんだけど、こういう食べ方なら生の野菜も食べられそう。
バターライスは細長いお米をバターで炊き込んだもの。西洋料理のベッタリとしたバター風味じゃなく、アッサリとした味わい。
そして憧れのムサッカ。ナスがトロトロっと柔らかくてあまい!
挽き肉もシンプルな味付けで強い香りのする香辛料は感じられず。お肉の旨味がしっかりと味わえます。チーズと絡めると更にうまい……。先生の本にトルコ料理はマーガリンや油をたっぷり使うと描いてましたが、たしかにたしかに。ムサッカもナスを揚げ焼きして挽き肉をつめて焼いているので、油分はワリとたっぷり。でもしつこくなくて、胃もたれせずペロっと食べちゃいました。
コース外の料理も、単品で頼んでみました。これはシガラボレーイ。トルコではユフカというパイ生地を使った白チーズの春巻きです。日本では春巻の皮で代用できるそう。一口噛むとコクのあるチーズがアッツアツ、トロ~っと広がります。これはオヤツにも朝食にも食べられるそうだけど、私にはビールの一択です。
チャイも頼みました。トルコの紅茶とのことだけど、独特の風味と渋みがあって面白い。味がしっかりしている茶葉なのでミルクと合わせてもよさそう。お好みでお砂糖を入れて飲むそうです。
初めて味わう、あこがれのトルコ料理。どれも食べたことがない初体験の味覚で楽しかった! 特にお豆のスープは食欲のない夏にもよさそうなので、家でも作ってみたい一品でした。最後までTさんと何を喋っていいのかわからなく…。そして予約していた団体さんや、私と同じトル考ファンも一組やってきて一人で仕切るTさんの忙しそうなことといったら。
次に行くときは、もう少し話のネタの準備をしてから出かけてみようと思います。