私にとって、旅の楽しみのひとつに食事がある。イギリスならフィッシュ&チップス、フランスなら牛肉タルタル、タイならトムヤムクンといった具合に渡航先の名物はもちろんのこと、地元の人が列をなす人気店やミシュラン店にも立ち寄ったりする。屋台のスープや軽食は言うに及ばず。お腹が減っていようがいまいが、興味が沸いたものはどんな味がするのかとりあえず食べてみたい。とにかく自他共に認める食いしん坊なのだ。
それだけに旅先で食が合わないと、高めキープだった旅のテンションは急降下する。逆においしいものに巡り会えると急上昇する。ひょっとしたら小豆相場より乱高下するのではないだろうか。大げさではなく、私にとって食の当たりハズレはその後の行程すらも変えてしまうほどの一大事なのだ。
ハズレが続き、満腹感が得られない食事が朝ごはん昼ごはんと連続すると
「なにを食べても楽しくないから外に出るのやーめた」
「もうこの国いやだ。日本に帰りたい……」
と、ホテルに引きこもって観光を放棄することもある。残りの日程をどこにも行かず、テレビやネトフリを観てやり過ごすことも珍しくはない。
たとえば私は中国の歴史が好きで、北京語の個人レッスンを受けるほど中国旅行には熱を入れているけれど、食事に関していえばアタリとハズレが半々の国だ。
というのも中国の料理で多用される五香粉がかなり苦手で、これの匂いを嗅ぐのもイヤなタチ。日本で食べる中華料理にはさほど使われないけれど、現地で食べる中華料理にはこれでもかというくらい五香粉がどっさり入れられている。
旅の始めこそ「あー、この料理にも使われてたか」とチョイスしたメニューを呪い、それでいて「この匂いを嗅ぐと中国に来たって感じがするな」と悠長に構えていても、2日目3日目と続くともう堪らない。食欲は一気に失せて、暗澹たる気分になってくる。お腹が満たされないことが、人の元気を奪うことがよくわかる。
そんな旅のテンションを乱高下させる悩ましき食事だが、最近では上手くテンションと胃袋をコントロールする術を覚えた。世界をウロウロと旅をしているけれど、買い物好きなので滞在先の多くがいわゆる大都市圏。そこに必ずあるのがハンバーガーでお馴染みのマクドナルドである。
「わざわざ外国に行ってまでマクドナルド?」と笑うことなかれ。結局は慣れ親しんだ味こそ、信頼と安心感があるというもの。心と体が辛くなってきた局面にはマクドナルドはよく効く民間療法といえる。どこの国のマクドナルドでも普遍的なおいしさだし、ビッグマックやダブルチーズバーガーを頼めばまず間違いがない。旅人にとって、とてつもなく優秀なレストランなのだ。
お国柄を反映しているのも興味深い。中国のマクドナルドだと朝メニューにお粥と油条があるし、中秋節などでは月餅も買えたりもする。こんなふうにオリジナルメニューを発見するのも楽しいのだ。パリのマクドナルドには、さすがスイーツやカフェ文化の本場だけあってラインナップが本格派過ぎる。注文したメニューがサーブされる際には「ボナペティ!」なんて言われてウインクされて、極東から来た私などは卒倒しそうになったことも。
さらに中国やフランス、サウジアラビアなどではタッチパネルの注文を導入し、ハンバーガーに好きな具材を追加したり増量したりできるカスタムメイドができる。日本でも注文時にビックマックのレタス抜きはよくやるけれど、パテ追加やピクルス増量はできない。国によってカスタムできるメニューのバリエーションも異なるから、今や現地のレスキュー飯としてではなくオリジナルの味を楽しみに必ず一度はマクドナルドに寄るクセがついてしまった。
同じファーストフードといえど国によって色んな違いがあって、最初はレスキュー飯のつもりで利用していただけだったけれどなかなかどうして、立派に「ご当地メニューを探すマック旅」などとテーマをもった巡礼ができるものだ。
「旅先の食事に合わなくて、お腹が満たされないときはマクドナルド」をもっと広めていきたい。ヘンな日本食のお店に寄って大失敗するより、確実にお腹と心が満たされることうけあいだ。