ロンドンのクリスマスマーケットでM.ジャクソンの「Black or white」を歌った話

今回ロンドン、パリへ旅行に行った目的のひとつがクリスマスマーケットを歩くことだ。といっても、街がクリスマス一色に染まる12月なんて仕事を休めるはずもなく。行ったのは11月末で、クリスマスマーケットが開かれているのは、まだロンドン市内で2~3箇所だけ。それでも雰囲気はそれなりに楽しめた。

もっといろんなアイテムが雑多に並ぶんだろうと、勝手に思い込んでいたけれど実際にはそうでもない。レスタースクエアもサウスバンクのクリスマスマーケットも、基本的に出る小屋は似たようなものばかり。オーナメントやウールの帽子やマフラーを売る店、チョコレートファウンテン、バーベキュー、食器etc. 目新しいものはなく、いささか期待はずれだった私は買い物もせずに、私は吹く風の冷たさに凍えながらホットワインを飲んでいた。

テロの警戒からか、どちらのクリスマスマーケットでも入り口に警備員を立たせていた。来場者の手荷物を検査してから中へ入れる仕組みだ。といっても、さほど見た限り厳重なチェックではない。流れ作業的にかばんを開けさせては、どんどん中へと入れていた。

熱々のホットワインで冷えた手を温めながら遠巻きに、私は楽しそうに行き交う人の流れに目をやっていた。会社の仲間だろうか、スーツ姿のグループやカップル、旅行客、家族連れなどいろんな人たちが次々にやってきた。BGMで流れていたQueenの「レディオ・ガガ」が終わり、M.ジャクソンの「Black or white」の前奏が会場に流れ出し、サビの手前になったときだった。

突然「♪Black or white~」と大きな声で、警備をしていた黒人女性が歌い始めた。その歌は91年に発表されたM.ジャクソンが作詞した楽曲で、そのものずばり人種をテーマにしたものだ。白人も黒人も関係ない、そう彼は歌詞に込めた。歌いだした女性にとって、とても大事な楽曲であることは私にもすぐにわかった。そして、私の隣で同じように温かい飲み物で暖を取っていた白人カップルも一緒に歌いだしたのである。

気がつくと、その場にいた数十人が肩を組み背中に手を当てて夜空に向かいみんなで歌っていた。誰もがとびきりの顔で笑っていた。もちろん私も、その輪に加わった。知らない者同士がひとつの曲をきっかけにひとつになる。なんて素敵なクリスマスの魔法だろうと、私は高らかに歌いながら涙がでた。みんながみんな、こんなふうに笑って手を取りあえたら悲しい出来事はこの世から消え去るのに。

あっという間に曲は終わり、三々五々拍手しながら解散となった。数分間だけで終わってしまったつかの間の魔法。日本にいると実感できないことも、海外に行って異邦人になってみると感じるものがある。あたたかで幸せな時間を噛み締めながら、ホテルへと戻っていった。